その他セクター① 顕著になる貨幣要因依存
これまでのコラムで、全世界株式であろうとS&P500であろうと、その成否を握るのは広義の情報技術セクターであり、ゆえに同セクターを常に把握することが不可欠であると述べました。
本稿では、上述のコラムから視点を変え、近年において国全体の企業収益が拡大した事例における共通項は何か、セクターを限定せずに考えます。
文責: 横尾 龍
2025年8月10日
貨幣要因にこそ注目
結論から述べますと、リーマンショック以降、経済規模が大きな国において国全体の企業収益が拡大した事例のほとんどでは、「減税を含む財政拡張」が行われていました。
言い換えれば、国全体の企業収益が拡大するには、貨幣要因にこそ注目すべきであり、他の要素だけでは不足ということです。
2011年以降、最大の収益拡大期はコロナ禍の1~2年間
本文のあとに、GDP上位各国における企業収益の推移グラフを載せています。それらのグラフと照らし合わせながら、以下、1990年代から現在に至るまでを振り返ります。
リーマンショックまでの期間は、EUの発足や中国の発展による需要の拡大に加えて、民間金融機関による掟破りの信用創造が寄与しました。いずれも、今は存在しない要素です。
時系列順で言えば、まず、欧州では1993年にEUが発足し、単一市場が本格的に機能し始めて規模の経済が働き、域内の企業収益が伸びました。
2001年には中国がWTOに加盟し、直接投資が伸びて同国の需要が増大し、その売上が世界にもたらされ、また、同国に生産活動を移管した企業は生産の効率化と利益率の向上を実現しました。
同じ時期に、米国では住宅価格の顕著な上昇が見られ、住宅ローンの証券化によるその長期化も相俟って資産効果が続いて個人消費が拡大しました。さらに、証券化商品への投資で利益を膨らませた金融機関による掟破りの信用創造も広範に拡大しました。
一方では、そのような信用創造があっても中庸的な成長率にとどまっていたことは、需要量の拡大が容易ではないことを示しています。
2008年のリーマンショックで収益が失われた後、2011年までは各国の金融緩和や財政出動に加えて、中国が強力な財政出動を行ったことが決定的な後押しとなって急速に回復しましたが、2011年以降は米国とインドを除いては各国とも長らく成長のエンジンに欠け、金融緩和だけでは効果が出にくく、減税を含む財政頼みの傾向が続いています。
久しぶりに企業収益が各国とも大きく伸びたのは、2020年のコロナ禍からの1~2年間です。
この時こそ、各国で財政出動が積極化したのであり、その間は金利が物価上昇に追いつかなかったため、まさに貨幣要因で収益拡大が実現しました。
注意すべきは賃上げ圧力
一方で、2020年のコロナ禍以降1~2年間の収益拡大は、2022年の急激な金利上昇で実質金利が大きくプラスになったところで終焉を迎えています。
先進国における労働力は減少が始まっていますが、そのことは労働者の売り手市場化と賃上げ圧力を招きます。特にその圧力は物価上昇時に一層強くなるため、賃上げ圧力が強すぎる場合は、金利が引き締め的な水準に高まることが想定されます。2022年は、日本を除く多くの国においてまさにこの構図となりました。
以上から、財政政策などで貨幣が増加していき、賃上げ圧力が強すぎず実質金利が大きくプラスではないこと、これが現代の企業収益拡大において短期的には最も望ましい構図と考えます。
各国株価指数における、予想一株当り利益の推移
日本
米国 S&P400中型株指数 (赤線が予想利益の推移)
中国
ドイツ
インド
イギリス
フランス
イタリア
カナダ
ブラジル
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